書籍を出す前に、知っておいて欲しいこと【その1】
大作家や誰もが知るような有名人でなくても、本は出せるが…。
そう。出版のハードルは以前と比べるとずいぶんと低くなりました。
ですが、「本を出す人=その道のプロ」という世間のイメージはまだ根強く残っているので、書籍をビジネスのブランディングに活用する人が増えています。
権威付けの効果が狙え、自分の巨大なPRツールになる書籍は、ホームページやチラシなどのその他のブランディングツールとは少し勝手が違います。簡単に出版できるようになったとはいえ、自分の名前で本を出すというのは大変なことです。本を出せるということは、それだけの知識やノウハウ、魅力、スキルを持っていると、世間に公表することに他なりません。それだけに、その道のプロであればあるほど、「恥ずかしい本は出せない」と考えるのも当然です。私がお手伝いさせていただいた著者様は、「本を作るのって、本当に大変だったんですね」と口をそろえていわれます。はい。自分で本を書いて、内容を精査して、魂を吹き込んだ良い本に仕上げようと思えば、それはとても大変な作業です。時間も手間もかかります。
逆に、インタビュー1~2回だけで作れる本があるのも事実です。執筆も編集も出版社に全部おまかせで、著者は最後に確認するだけというケースです。後者の場合、お金はかかりますが手間はあまりかかりません。ブランディング出版ではあまりこういった案件に出会うことはないですが、まあ、商業出版では結構ありますね。
ひと口に、本といっても、作り方や出版方法によって、ほんとうに千差万別。ブランディング書籍の出版を考えている方が、事前に知っておいたほうがよい基本情報を少しまとめてみました。
商業出版と自費出版の違いは、
ざっくりいうと、「誰がお金を出すのか」
- 商業出版
商業出版、自費出版、自己出版など、出版にはいくつかの形式があります。商業出版とは、出版社がお金を出して本の制作・出版・販売活動をするスタイルです。大作家や著名人が本を出す場合はほぼこのスタイルです。著者は原稿を提供する代わりに、本の売り上げの5~10%を印税としてもらいます。著者がネタだけ提供してブックライターが書くことも多いですね。印税は契約内容によって異なります。大先生や著名人になれば、もっとたくさん印税がもらますし、新人の場合はもっと少ないことも。 - 自費出版
読んで字のごとく、自分がお金を出して本の制作・出版を行う方法です。自費出版サービスを行っている出版社が、原稿制作のアドバイスや編集、表紙の製作など、もろもろの手伝いをしてくれます。著者が自分で原稿を書くケースもあれば、ブックライターに書いてもらうケースもあります。 - 自己出版
最近、ぐっと増えてきた出版方法で、自費出版と同様に自分で制作費を出しますが、印刷費の初期負担がないのが特徴です。AmazonのPODや電子書籍がこれに当たり、Amazonといくつかの提携オンライン書店で本を販売し、1冊売れるごとにAmazonがオンデマンドで印刷をして、顧客へ配送します。本の在庫を抱える必要がないので、印刷費や倉庫費などが節約できます。出版可能な本のデータ制作は、編集プロダクションや自己出版サポート会社に依頼することもできます。
この他にも、共同出版(商業出版と自費出版の間のようなスタイル)や企業出版など、出版社によっていろいろな呼び名の出版方法が提示されていますが、おおむね上記の3つがメインだと思います。ちなみに私が普段お仕事でお手伝いさせていただいているのは、商業出版のためのブックライティングと出版企画書の作成サポート、自費出版および自己出版の制作・出版サポート全般です。
どうすれば商業出版できるのか?
ハードルはいまだ高し
出版方法の選択肢が増えても、多くの方はまず商業出版を検討されます。昔ながらの出版の王道で、出版社が責任をもって制作進行してくれる上に、宣伝も営業も行ってくれて、その費用も全部出してくれるのですから、それはそれは魅力的です。しかし、ご想像に難くないとは思いますが…、商業出版はやはり簡単ではありません。出版社にとって景気が良いとは言えないこの時代、当然、採算が合うと確信できる本でなければ、なかなか出してくれません。
では、どんな本が採算がとれるのか…?
いくつかび要素がありますが、ズバリ、
「数字を持っている人」
の本です。
例えば、
・SNSフォロワー〇〇万人
・〇〇〇人以上のファンを持つカリスマ経営者
・セミナーを告知したら全国から〇〇名の参加者が即申し込み
・最近話題の〇〇を開発した人で、マスコミの露出度が高い
などなど、本を出せばすぐに1000名以上は本を買ってくれそうな方たちです。
著者自身は数字は持っていなくても、社会のニーズや環境で数字が上がりそうなものも…。
・今、話題になっているモノ(コト)の第一人者で新規性がある
・著名人の後ろ盾があり、PRに一役買ってくれる可能性がある
また、少ないながら、以下のようなケースで出版が叶ったこともあります。
・もともと出版社が企画していた書籍の内容に合致したプロである
・書籍の企画がすばらしく、編集者の経験上「売れる」と思う
商業出版の第一歩は出版企画書
すでに出版社と太いコネクションがある場合は別ですが、いきなり原稿を送りつけてもほぼ見てもらえません。
まずは出版企画書を用意して目当ての出版社へ持ち込むのが王道です。
出版企画書は、下記のような内容を簡潔にまとめ、さっと要点がつかめるものがベストです。
・本の概要
・その本を書くことにした理由や経緯
・その本が必要だと思う社会的背景
・著者プロフィール
・目次案
・セールスプロモーション案
ただ、出版企画書を一生懸命に書いて、出版社の門をたたいても、多くの人が編集者と顔を合わせることなく、ここで脱落するというのも事実です。世知辛い話ですが、「この本は売れる!」と数字が浮かばないようであれば、なかなか厳しいです。
商業出版でなくても出版をしたい場合は、自費出版や自己出版があります。自分で製作費を出さなくてはなりませんが、内容に問題がない限りはほぼ100%出版できますし、出版社の都合で書籍の内容を変更されることもありません。一緒に組む出版社や制作をサポートする編集プロダクションなどによって、サービス内容も制作費用も大きく異なりますので、「自分の必要なサービスを提供してくれるか」「予算は合うか」など、いろいろ検討してみましょう。また、本ができ上るまで長い期間パートナーとして伴走する相手ですので、相性が合う編集者を選ばれるのが良いと思います。
高すぎる商業出版プロデュースサービスは
自費出版の新たな営業方法の場合も
「やはり商業出版がしたい」という場合は、SNSのフォロワーを増やす工夫をしたり、著名な方の応援を取り付けたり、出版企画書を練り直したり、アプローチする出版社を選択し直したりなど、いろいろ検討してみましょう。ただ、一つだけ、気を付けたいことが…。それは、商業出版という名の自費出版に手を出してしまうことです。例えば、「商業出版ができます」と謳う非常に高額な出版プロデュースサービスの中には、ちょっと怪しいものもあります。まっとうな出版プロデュースがほとんどなのですが、一部では、自費出版社での出版を商業出版しているかのように見せかけているようなことも。出版プロデュースの費用として払っている金額は、実は自費出版の費用なのかもしれません。出版プロデュース料金が数百万円などの場合、いったん冷静になってみてください。そのお金で十分に自費出版ができますから。
「それでも自費出版と同じ価格なら別にいいよね」という方に、もう一つだけ注意点を。商業出版の皮をかぶった自費出版の場合、本が売れても商業出版並みの印税しかもらえないかもしれません。商業出版の場合、本の売り上げの5~10%程度が著者の印税となり、そのほかの売り上げは全て出版社のものとなります。製作も営業も、宣伝も出版社もちなのですから、通常の商業出版であれば、それが当然といえば当然です。しかし、自費出版の場合は、著者が製作料のみならず一切の費用を払うのですから、必要経費を引いた売り上げは、すべて著者のものとなるのが道理だと思います。出版社がPRや営業などを代行してくれる場合は、そのサービスに必要な費用の取り決めがあるはずです。商業出版の皮をかぶった自費出版の場合、著者だけがリスクを負って、出版社側あるいは出版プロデュース側は美味しいとこどりになっていることがあるので、注意して確認してくださいね。
ブランディングの目的によっては
自費出版の方が向いていることもある
ブランディング出版では、「世間に広く名を広めたい」「セミナーや教室で使用するテキスト的な書籍が欲しい」「営業で活用できる名刺代わりのツールにしたい」など、著者によって書籍の用途や目的はいろいろです。テキスト利用や顧客へのギフトとして利用する場合は、商業出版よりも自己出版や自費出版の方が向いている場合もあります。どの出版方法が自分の目的に合っているのか、書籍が本当に自分のブランディングの役に立つのかなどを検討し、その上で、書籍出版をしようと決意されたら、まずは出版企画書を書いてみましょう。商業出版を目指す場合も、自費出版をされる場合も、出版企画書を書くことで自分の考えがまとまりますし、書籍をどのようにビジネスに役立てるのかなど、ブランディング方法がクリアになるはずです!